東京地方裁判所 昭和55年(ワ)70619号 判決 1981年3月25日
原告 富田弘子
被告 土屋正孝
主文
一 被告は原告に対し金五〇〇万一〇九四円及び内金二五〇万円については昭和四五年八月二八日から、内金二五〇万一〇九四円については昭和五三年一二月一九日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決第一項は仮に執行することができる。
事実
一 請求の趣旨
主文第一及び二項同旨の判決並びに仮執行宣言を求める。
二 請求原因
1 原告は別紙手形目録記載の約束手形一通及び別紙小切手目録記載の小切手一通を所持している。
2 被告は右手形及び小切手を振り出した。
3 原告は右手形及び小切手を支払呈示期間内に支払のため呈示し支払が拒絶されたので、右小切手については支払人をして呈示の日を表示し、日付を付した支払拒絶宣言の記載をさせた。
4 原告は右手形及び小切手について、東京地方裁判所昭和四五年(手ワ)第一九七六号約束手形金小切手金請求事件の同裁判所昭和四五年九月二六日言い渡したかかる左記主文の判決を得た。
(一)(1) 被告土屋正孝及び同太田克孝は各自原告に対し金五〇〇万円及びこれに対する昭和四五年八月二八日から
(2) 被告土屋正孝は原告に対し金二五〇万円及びこれに対する昭和四五年八月二八日から
各完済までの年六分の金銭を支払わなければならない。
(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(三) この判決は仮に執行することができる。
5 右判決は被告に昭和四五年九月二九日送達され、同年一〇月一四日確定した。
6 原告は、被告の判決書記載の住所に支払催促をしたところ送達できなかつたので、昭和四七年一二月二八日、同四九年三月一八日、同年九月二八日、同五〇年一一月六日、同五一年八月四日、同五三年五月一九日、同五五年八月二三日、同年一〇月八日、それぞれ被告の戸籍の附票または住民票を調査し、その記載の住所に手紙を出したり調査員を派遣したりしたが、いずれも右住所に居住しておらず、その間被告の実母及び実弟に被告の所在を尋ねたがやはり所在は判明しなかつた。
7 原告は、前記手形小切手判決の執行力ある正本に基づき、同判決の相被告である太田克孝に対し、同人所有の不動産の強制競売申立を長野地方裁判所松本支部になし、昭和五三年八月二二日同庁の強制競売開始決定がなされたが、同人が分割返済をするとして昭和五三年一〇月一九日金二〇五万円、同年一一月二八日金五万円、同年一二月一八日金二九〇万円を支払つたので右強制競売は同年一一月一一日に取下げた。
8 前記手形小切手判決による原告の被告に対する権利は昭和五五年一〇月一三日の経過により消滅時効期間が満了となるが、被告の所在がわからず執行が不能でやむを得ず時効中断のため本訴を提起した。
9 よつて原告は被告に対し、請求の趣旨のとおり本件手形金の内金二五〇万一〇九四円及びこれに対する満期以後の日からの手形法所定の利息の内金及び本件小切手金二五〇万円及びこれに対する呈示以後の日からの小切手法所定の利息の支払を求める。
三 被告は公示送達による呼出を受けたが本件各口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面を提出しない。
四 証拠<省略>
理由
一 請求原因第1項の事実は、本件小切手及び手形が甲第二〇号証及び第二一号証として提出されたことにより認める。
二 同第2項及び第3項の事実は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一七号証の一、二並びに弁論の全趣旨によれば東京地方裁判所昭和四五年(手ワ)第一九七六号約束手形金小切手金請求事件について同裁判所が昭和四五年九月二六日言い渡した手形小切手判決により認定されている事実であつて、同判決が確定したことは弁論の全趣旨によつて認められる以上、同判決の既判力により口頭弁論終結以前の権利関係である右請求原因事実は、原告主張のとおりとするほかはない。
三 右確定判決が存在することにより本訴提起の法律上の利益が問題となり、原告は請求原因第4ないし第8項でこの点についての主張をするので判断する。
1 前訴で勝訴した当事者が同一あるいはその申立においてより狭い訴を提起する場合であつても時効中断のために他に簡易な方法を欠き、裁判上の請求によらなければ時効中断の目的を達し得ない時は再訴によつて権利保護を裁判所に請求する利益があるというべきである(大審院昭和六年一一月二四日判決民集一〇巻一二号一〇九六頁参照)。
2 既に給付判決が存する場合は更に給付判決を求める利益がなく確認判決を求め得るにすぎないとの考え方もあるが、最も新しい判決において既判力と執行力を一致せしめるのが適当であり、数個の債務名義を成立させることについても執行力ある正本の数通付与(民事執行法第二八条)が認められるのであるから、実際上の不都合はさほど生じないと考えられるのであつて、前記のとおりの厳格な条件(確認判決説は時効中断のための他の方法がないことまで要求するものでない。)のもとに再訴を認める以上、給付判決をすることができるというべきである。
3 そこで請求原因第4ないし第8項をみるに、同第4項は前掲甲第一七号証の一によつて、同第5項は弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一八号証及び弁論の全趣旨によつて、同第6項はその方式及び趣旨によつて、公務員が職務上作成したことが認められるので真正に成立したと推定すべき甲第二ないし第四号証、第六、第七号証、第九号証、第一一ないし第一三号証、第一六号証の三、並びに弁論の全趣旨により、同第7項はその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したと認められるから真正に成立したと推定すべき甲第一〇号証並びに弁論の全趣旨によりいずれも原告主張事実が認められるのであつて、右認定事実によれば、前記手形小切手判決による原告の被告に対する権利が昭和五五年一〇月一三日の経過により消滅時効期間が満了すること及び被告の所在が不明なので原告は本訴の他に右時効を中断させる方法がないことが認められる。
四 以上によれば原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、仮執行宣言について同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 大戸英樹)
(別紙) 手形・小切手目録<省略>